『3055』が閉鎖しちゃったので、書いた記事をサルベージするよ。
入稿 2012/10/30
Pink Floyd / Atom Heart Mother (1970)
1. Atom Heart Mother
2. If
3. Summer '68
4. Fat Old Sun
5. Alan's Psychedelic Breakfast
とくにプログレッシヴ・ロックを好んで聴かない人も、この牛が振り向いているジャケットを目にしたことはあるだろう。ピンク・フロイドから、初期の中心的存在であったシド・バレットが去った後、映画のサントラ盤である『More』、ライヴと各メンバーのソロで構成された変則的アルバム『Ummagumma』を経て製作された本作は、レコードA面すべてを使った大作を要する野心的なものとなった。サウンドの変化として、シドがいた頃のような、サイケデリックでストレンジなポップといったタイプの曲はなくなっている。フロイドの音は一貫してイマジネイティブであるが、かつての、実像を捉えることを許さないフワフワとしたものから、聴いていると何らかの風景が立ち上がってくるようなものへ変化してきた。
表題曲は23分にも及ぶ壮大なナンバー。ジャケットの画とともにプログレのイメージを決定付けるような存在となっている。ロック・バンドのプレイに加え、管弦楽器やコーラス隊、さらには混沌としたサウンド・コラージュまで詰め込んだ、圧倒的情報量をもって迫ってくるシンフォニック・ロックが展開されている。
B面の小品『if』では、ロジャー・ウォーターズが周りの世界に対し感じる違和感、他人との距離が歌われている。これは後の作品で大きなテーマとなっていくものだが、ここではまだ、控えめなトーンで語られており、主張というよりはささやかな独白といった感じである。その変化は実に興味深い。(Jeff Goldsmith)