ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

マリリン・マラソン

2014/04/08 Bob Dylan and His Band @ Zepp Divercity Tokyo

 

…と、いうワケで、昨日俺はボブ・ディランのライヴを観た!

Bブロックのチケットを持った俺は、係員の指示に従って入場。満員のフロアで開演を待った。客入れのBGMは何もかかっていない。客の声がざわざわと空間に漂っているだけだ。俺は中年夫婦と、その友人と思しき男との、「海外に行ったときはこことあそことどこどこで遊ぶ」といった会話をずっと聞いていた。せいぜい、青春18きっぷを使って出かけ、検索した最安値の宿に泊まるぐらいの旅行しかしない俺は、異世界の会話を戦慄しながら聞いていた。

とかなんとか、聞こえてくる会話に泣きながら立っていると定刻通り、つまり普段観るライヴより20分早く。つまりホントの定刻通りの帝国の逆襲の定刻通り、ほぼ19時ジャストに客電が落ちた。焦らすような前置きもなく、メンバーとボブ・ディランは登場し、か『シングス・ハヴ・チェンジド』でライヴはスタートした。白いスーツとハット姿でディランが歌っている!目の前で歌っている。いや、ライヴハウスと言っても俺の目の前じゃないか。俺Bブロックだし。

単色かつ、かなり薄暗い照明の中、順調にセットは進行していると思ったそのとき、ディランがピアノを弾く3曲目『ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング』で突如ノイズが発生!そのまま鳴りやまずに演奏がストップ。少しノイズが収まったところでディランがリードしマイナー・キーのジャムが始まった。ほんの数分だったがこれはレアな体験だ。そのままジャムのテンポを引き継いで曲に戻ってやりとげたら伝説になったんだけど…そうもいかず、メンバー全員退場して約20分の中断。アナウンスによるとモニター関係のトラブルらしい。途中、メンバーがステージに登場して演奏を再開する…ふりをしてまた戻るといったコント(?)を披露。しまいにディランまでが出てきてそれをかましてくれた。とうとう客電まで点灯して、まったりと待ったりまた待ったりしているうちに問題は解決したようで、ライヴでの演奏はこのツアーが初らしいレア曲の『ハックス・チューン』から、なんとかライヴは再開した。

そこからは、まあちょっと「もうトラブル起こってくれるな」とドキドキしながらも、次々と繰り出される素晴らしい演奏を聴いた。目下の最新アルバム『テンペスト』をはじめ、2000年代になってからの作品中心という、同年代のビッグ・アーティストの真逆を行くようなセット・リスト、まさにディラン道といった感じの攻撃的な構成で進行。事前情報まったくなしでいきなりこれだと困っちゃうけど、今はネットがあるし、俺も覚悟して臨んだので、不安に思っていたほど偏屈なライヴではなかった。ピアノとブルース・ハープのみで、ディランが一回もギターを弾かないというのは残念だったが、バンドの演奏が素晴らしい。ギターはチャーリー・セクストンなのね。中学生の頃にはチャリーがディランのバックでギターを弾くなんて思ってもみなかった。あ、そもそも中学生だとディランの存在をよく知らなかったか。あと、ディランの歌が良かった。近年のアルバムにおいては、ガラガラ声と滑舌の感じが、もう完全に老人といった佇まいで辛い部分もある。しかしライヴで、その老いたスタジオ作品からまったくブレない老いた声でピタリと聴かせるから、違和感が払拭されていく。老い方、枯れ方としてはこれはこれで結構正しい形なのか。

アンコールは、ハードなアレンジの『見張り塔からずっと』と、ほぼ別物のように解体された『風に吹かれて』。コードが(たぶん)同じだけで、リズムも、歌メロも、歌の譜割りもまったく変わっているから、「これは何だっけ?」と脳内検索して、曲を思い出す。思い出したはいいが、聞こえてくるのは違うアレンジなので「元の歌ってどんなだったっけ?」と混乱して必死に思い出す。2コーラス目から、思い出した元曲を今のアレンジに当てはめて、先回りして脳内再生。ディランの歌が来るのを待ち構える…と、もうなんか戦い。そんな真剣勝負を繰り広げてライヴを観終わった。

向き合い方としては、かなりストイックなディランのライヴ、でもそれで納得させてしまう音楽そのものの力。だから何日もの公演スケジュールでZeppのキャパを埋め、軒並みソールド・アウトをしてしまうのだろう。この日、ディランは一言「アリガトウ」とMCをした。もしやと思って終演後に調べてみたら、ここまで他の日は「サンキュー」だったらしい。

TempestTempest

(2012/09/11)

Bob Dylan

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