ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

ビルとスーの私生活

旅は2日目を終え、3日目最終日となる。大阪の夜が明けた。

ここでも早く起きて、というか、夜中に眼が覚めてしまい、そのまま寝そびれてしまった。なので予定より早くこの地を離れることにした。少しでも行程に余裕が出来た方がよい。すぐにホテルをチェックアウトし、ちかくのすき家で朝食をとった。店内には、スタジオの深夜パック練習を終えたところと思われるバンドマン(うちひとりは女の子)たちがいて、曲のアレンジについて真剣に議論していた。そして、大きなバッグを足元においてテーブルに突っ伏し眠っている旅行者。さらには、牛丼を半分食ったところで寝てしまっている者と、いくつかの人間模様があった。

 

 

今日も大阪は暑そうだ、気温が上がる前に列車に乗ってしまえ。とりあえず…もう少しいい塩梅の季節に、神戸も大阪もまた来たい。でも、あの熱気がないと、辛くないキムチ鍋みたいなものなのだろうか?

前倒しで調べ直したスケジュールを元に、東海道線の新快速に乗車。帰り道が東海道線なんて、どうやっても混むのは覚悟していた。案の定立ったり座ったりで、座っている間は眠っていた。えーっと、道中何か面白いことあったけ?立っているときに本を読んでいて、挟んでいたしおりを、自分の前に座って乗っていたオネエサンの胸元に落としてしまったぐらいか。オネエサンはいやな顔をせず、笑顔でそれを渡してくれた。あ、オネエサンといっても、もはや私よりもかなり年下だろう。あと、やはり列車の長旅は、ネットの乗り継ぎ検索だけでなく、本になっている時刻表を読めた方がいいなあ。読めないけど。あれを使いこなせれば、どの列車がどこ始発かも調べて、上手く計画を立てれば座って楽に移動できる時間をより多く確保できるんだけどなあ。

静岡県に入ったところで、空に黒い雲が広がり、大粒の雨が降ってきた。不安定な気象状況で、悪天候との追いかけっこになるのだろうか。

 

関西から東京へと向かう東海道線では、車内で食事はできないだろうと、途中下車するスケジュールを立てていた。大阪から帰るのに、途中ひとつ途中下車を挟むってのも結構冒険だったのだが。満員電車の中じゃ飯が食えないしね。

そして降り立った浜松駅前。まだ雨は来ていないようだ。しかし不穏な空の色。そして、どうもそれっぽく風も強い。遠くでは雷の音も聞こえる。

浜松なのに、ヒレカツ定食を食らう。だって、うなぎ…高いし、それに神戸の神戸牛、浜松のうなぎは、今回の番組収録ではNGというルールがあったんで…

 

食事を終えた私は、水族館へ行ったのであった。というのはウソで、これは模型である。

そう、浜松で降りた目的は食事ともうひとつ”浜松ジオラマファクトリー”に寄るため。日本における情景作家、モデラーの第一人者、山田卓司氏の作品を中心として、プロモデラーが作った数々のジオラマが展示してある。

ガンプラや、ミリタリーもののジオラマもあるが、昭和の風景など、人々の日常を切り取ったような作品が多い。と、すると、それらを縮尺の中に生き生きと再現するのは、単に模型を作る人ではなく、ストーリーを考える”作家”の仕事だなと改めて思った。

ジオラマファクトリーでは、素晴らしい作品群を思う存分堪能した。しかし、それが入っている商業施設は、神戸に続いてまた空き店舗だらけで…食事する店を探して入った、駅前の小さな地下街も空きだらけだったし、ううむ、日本の地方都市は大丈夫なのだろうか?地方都市に限らず、東京でもお台場なんて、古めの施設はかなりガッタガタだけど。そんなうら寂しい建物の一角で、ジオラマファクトリーは異彩を放っていた。

浜松駅までの帰り道は、雨が降っていた。旅の最終日に、とうとう雨にあった。だがそれほど激しくはなく、持参した折りたたみの傘で充分凌げた。

浜松~熱海間は、33各駅に停まるというサディスティックな区間なのでムチャクチャ長くかかる。しかも乗ったのが古いタイプの車両なので冷房があまり効かず、蒸し暑かった。夏休み時期の夕方、静岡から東京方面に向かう列車の中は、もうそのほとんどが旅行帰りの客である。様々な観光地のお土産袋が見える。女子会旅行、疲れてグズる小さな子供、それを嗜める親。里帰りを済ませた家族、鼻が胡坐をかいている人、出っ歯の人、野菜嫌い、日和見の人、うらなり、太鼓もち、ギャンブル好き、外人部隊、賞金稼ぎ、地底人、治安警察、遣唐使、遣隋使、女性占い師など、様々な人の、様々な夏の思い出を乗せ、相模湾に反射する太陽の光を浴びながら列車は東へと進んだ。

熱海からは快速アクティー。小田原、茅ヶ崎、横浜と、日常の風景が近づいてくる。そう、敦賀で観た花火大会の、大フィナーレのように、旅のクライマックス、興奮のピークは最後に訪れるのではない。思い出を作った街から乗ってきた列車は、何度か来たことのある街、頻繁に遊びに来る街、地図がなくても歩けるなじみの街、通勤圏内と、旅の終わりが近づくにつれ、自分の日常と溶け合い、段々と、そして確実に現実へと引き戻していくのだ。あー今回の旅ももう終わりか。私は幾許かの寂しさを感じつつ、アクティーを新橋で降りた。そして山手線で秋葉原へ。ここまで来ると完全に、“頻繁に遊びに来る街”だ。その秋葉原で、旅の終わりに何故かアキバヨドバシに寄り、切らしていたプラモデルの塗料を購入。ついでに夕食をとり、北千住まで。ここは日比谷線で移動した方が早いのだが、ちょっとケチって18きっぷで乗れる常磐線で移動。

三日前、大宮を起点に始まった、地方都市の疲弊振りをかみ締める旅…じゃなくて、まんだらけ全店制覇行脚…じゃなくて、何だっけ?敦賀で花火を見て、神戸の風景を楽しんで、大阪の熱気にやられる青春18きっぷの旅は、北千住で終わった。終わってしまったのだ!ここからは東武線に乗って帰宅する。ホーム・スウィート・ホーム。今回も、大きなトラブルなどなく、高密度な、充実した旅が出来たと思う。ありがとう18きっぷ。おおきに関西、また来るぜ北陸、晴れ、ときどき東海。お疲れ様自分。来年もまだ18歳でいられるだろうか。私は三日前の朝以来使っていない、自宅の鍵を取り出し、ひとつ呼吸を整えた。

おしまいだっつてんだろうが!