ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

ロックン・ロールの自殺者

地元駅を始発で出た。旅に出るのだ。

 

大宮を起点にJR“青春18きっぷ”の旅が始まる。このときだけは、18歳に生まれてよかったと、つくづく思う。

湘南新宿ラインはフツーに通勤電車といった感じで座れず、都内を抜けるあたりまでずっと立っていた。幸先がいいぜまったく。とりあえず、持参した文庫本を読みながらやり過ごす。午前4時前に起床したので、眠さ満点である。

神奈川県に入り、平塚から東海道線の長い道のりが始まる…が、一日10時間以上電車に乗る旅で、その大半を費やした東海道線、デジカメに画像が一枚も残っていない。誤って消したのではないぞ。シーズンがら、ほぼずっと車内は混雑しており、時にはシートに座れない状況で、デジカメを取り出して風景を撮影するような雰囲気でもなかった。それに東海道線は前回、元日に乗っているしね。とりあえず関東と関西を結ぶ東海道線の旅は楽しく過ごすのが難しい。大垣夜行が人気なのも分かる。というか、眠いったら眠いので、シートに座っていられる区間では、首をこっくりこっくりさせながら眠り、眼が覚めたら本を読み、それに飽きたらポケットラジオを聴き、それに飽きたら寝るといった感じで過ごした。ロングシートなので、向かいに座っている人の肩越しに熱海の海がキラキラと見えてくる。冬の旅と違うのは、電車が駅に停車し、ドアが開くたびに蝉の声が飛び込んでくるのだ。列車の外はとても暑そうで、冷房が効いて冷え冷えの車内とは別世界のようである。興津だったか、乗り換え待ちをしているときに、線路を挟んだところにある生垣に無数のアゲハチョウが舞っていた。上手く撮影できなかったので、心のシャッターを押した。

周りを見回すと、車内には家族連れ、カップル、男子グループ、女子グループ、外国人観光客のグループ、そして私のような一人旅と、いろいろな形での旅が詰まっている。日焼けした子供たち、その親、顔のパーツが中央に寄った人、逆に眼と眼の間が離れた人、『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくるサラリーマンのような顔、市役所税務課の課長、中古車販売業を営む人、ヤクザ、マフィア、売人、諜報員、マタギ、金星人、火星人、デジタルパーマをあてた人…様々な人の、それぞれの夏、2012年の8月を乗せて、列車は西へとひた走った。

豊橋でようやくロングシートの旅から開放され、買っておいた弁当を食らう。これも前回と同じだが、違うのは、豊橋を発つ時点で乗車率がほぼ100%になるので、うっかりモタモタしていると弁当を食べるスペースを確保できず昼食のタイミングを流してしまうというところ。あぶなかったぜ。

今回の往路では、米原で東海道線とお別れし、北陸本線で日本海側へと抜ける。米原の時点で時計は15時を回っている。

本日最後の乗り換え駅、大江塩津。列車到着の時間が近づくにつれ、ホームには、私と同じ目的で乗るであろう、浴衣を着た人たちが増えてきた。これから始まる祭りの磁場を実感し、こちらもなんとなくウキウキしてきた。

16:01。本日の目的地である敦賀駅に到着。駅から出たとたん、北陸の刺すような西日に襲われる。十何年前、富山出身の同僚が「こっち(大宮)の暑さは下からムワァッっとくるけど、俺の地元だと上からグゥワッっと来るんですよ」といっていたのを思い出す。 敦賀は前回の18きっぷ旅行で、1月2日に立ち寄っている。電車の待ち合わせ時間に、ちょっと駅の外に出ただけだったけどね。そのときは駅前に雪かきされた雪がドカっと鎮座していた。

予約しておいた、駅前のビジネスホテルにチェックイン。昭和な感じの建物だった。もちろんオートロックではない。部屋に充満した熱気を冷ますため、すぐさまエアコンのスイッチを入れた。

廊下には麻雀ゲームが。ちゃんと見てないけど、これもう動かないよね? コンセント入れれば使えるのか?

夕食は、越前の豪華海鮮料理…ではなく、ホテルから少し歩いたところにある地元のスーパーで安い弁当と安いプライベートブランドの飲み物を買って部屋に持ち帰り、背中を丸めながら侘しく貪り食った。いいんだ、これでいいんだ… 

こうして私は夕食を済ませ、部屋の鍵をホテルのおっちゃんに預けると、本日のお目当てを観るために敦賀港へと向かった。おっちゃんに、「港へ行くには徒歩だキビシイアルか?」と尋ねた。食事中だったおっちゃんは、口をモグモグとしながら、「歩きだと一時間くらいかかるアル。シャトルバスに乗るとよいアル」と、バス発着所までの地図を手渡してくれた。

第二回に続きます…