ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

デス・アンド・ダイイング

椎名誠 / 新宿熱風どかどか団

『哀愁の町に霧が振るのだ』『新橋烏森口青春篇』『銀座のカラス』『本の雑誌血風録』ときて、いよいよ椎名誠がサラリーマンを辞め物書きとして独立、“本の雑誌”も株式会社となる『新宿熱風どかどか団』。

ここから先の道のりは、荒波に漕ぎ出すようなモノだと思うが、トーンとしてはシリーズ中一番落ち着いている(落ち着いているといっても、文体が落ち着いているワケもなくケーハク体なんだけど・・・ドラマ性、感情の揺れが落ち着いているのか?)。

『哀愁の町に霧が振るのだ』のハチャメチャな感じ、若いパワー、『新橋烏森口青春篇』『銀座のカラス』に漂う哀愁のようなモノ、『本の雑誌血風録』で感じる“何かが始まる予感”などのようなモノに代わって、もっと軽やかな手触りだ。

これまでもそれぞれ書き方が違っているし、本題の物語に混じって書いている現在の話を織り込んだり、実名と一人称をやめてフィクションの度を強めたりと変化があったが、この作品は自伝的小説というよりは、感触としてはほぼ過去を振り返るエッセイとなっているのかなと思う。文章としては、昔を回顧しているのだが、自伝小説より作者一連のエッセイを読んでいる感じに近い気がする。(まあ、『哀愁の町に~』も、元々スーパーエッセイと銘打っているけれども)

会社を辞めるといった転機以降は、そんなに大きな事件もなくパワフルに活躍の場を広げているといった印象だが、そうかと思えば自分がサイン会を開いた紀伊国屋書店で1週間後に一般客と乱闘を起こしたり、そういったところは相変わらずではある。

椎名誠本人“本の雑誌”だけでなくその周辺・・・当時の出版文化の勢い、熱さが描かれていて、このご時世に読み返すと思わず遠い眼になってしまうのであった。

新宿熱風どかどか団 (新潮文庫)新宿熱風どかどか団 (新潮文庫)

(2005/10)

椎名 誠

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