NEW ROTEeKA / ハーレム野郎 (1989)
バンドブーム期に多数現れた“明るく楽しいビートパンク”に対して、眉をひそめるような感情があった当時も、何故ニューロティカの『ハーレム野郎』は愛聴盤になったかというと、明るく、ともすればバカ騒ぎのような佇まいの中に、ほろ苦い“男の哀愁”が漂っていたからだろう。
勢いで作ったようなハイスピードな曲たちはどれも簡単に作られているようで、メロディ構成が秀逸でありシンガロングな要素が満載。思わず暴れたくなるのは単にテンポが速いからだけではなく、リズム的な引っかかりとメロディの絡まり方が絶妙なのだ。
そして、底抜けに明るい作品であるが、聴いているとなんとも甘酸っぱい感情が湧いてくる。ギタリスト、修豚の演歌的泣きの作曲センスが効いていることが大きいと思う。さらに、騒げ騒げとノリノリな一方で、男の慕情、そこはかとない情けなさをよく描いた歌詞が心を掴む。
フロントマン、アツシのピエロメイクは、やりはじめた当初にそんなことを思っていたワケではないだろうが、おどけた顔でも片目からは涙が落ちているのである。道化を引き受ける覚悟、底抜けの明るさの中に突然差し込んでくるような哀愁が他のビートパンクと一線を画す要因である。
コンセプトアルバムでもないのに、ほとんどの曲をハイスピードな2ビートの曲で突っ走った後に、ミドルテンポで横ノリのロックンロール、旅立つ男の歌『ROCK & ROLL RAILROAD』(修豚がダミ声で歌唱を担当)で締められると、ロードムーヴィーを観終わったような感覚を覚える。そのような着地点もアルバムの印象を単にコミカルでないものにしている。
珠玉の楽曲群はもちろん、チープなジャケットも、曲間のコント、ギャグでさえも輝いているアルバムだ。
ハーレム野郎
(1998/10/21) NEW ROTEeKA |