ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

バック・オン・ザ・ファーム

“ちゃん大”

ちゃん大は小学校三年生のときに一緒のクラスになり、三年~四年生をクラスメイトとして過ごした。当初はオーソドックスに“大ちゃん”と呼ばれていたが、いつしか業界用語のような逆さ言葉で、“ちゃん大(チャンダイ)”と変化した。

お互いに絵を描くのが得意だったので、松本零士の画風をまんまパクった、オリジナリティのない漫画を描くなどして親睦を深めた。予断だが、俺たちがパクったのは、『宇宙戦艦ヤマト』や、『銀河鉄道999』ではなく、『戦場ロマンシリーズ』で、それを真似てゼロ戦やら隼、飛燕などの絵を描いていた。同じクラスだった2年間、俺たちは親友といっていいほどの間柄だった。ちゃん大が盲腸で入院したときのことだって覚えている。東武動物公園にも一緒に行った。

ある日、友人数人とちゃん大の家に遊びに行くと、ちゃん大は自分で組み立てたプラモデルを見せてくれた。バンダイから発売された“1/144 ズゴック”。これが、俺とガンプラのファースト・コンタクトとなった。ズゴックは、指定色どおりに着色されていた。“ガンダムカラー”はもう少し後になって発売されたと思うので、近い色の塗料で塗ったのだろう。キットの成型色であるグレーのボディは塗装していなかったかもしれない。一番驚いた…というか勘違いなのだが、つやありのブラックで塗られたモノアイのシールド。これを見て俺は、「ちゃんとガラスが入っている」と思ってしまった。よく見たら違うと分かったが、なぜかそう思ってしまうほど、ガンプラの出来は衝撃だったのだ。造形としては、ガンプラより先に作っていた、タミヤの戦車やハセガワの航空機の方が優れていたように思う。なのに何故、ズコックを見て驚いたのだろう。それまで人型ロボットといえば、“超合金”のおもちゃで、それとは違う“プラモデル”としての佇まいに驚いたのだろうか。

その後、ちゃん大とは五年生のクラス替えで分かれてしまった。隣のクラスだったので、前ほどではないが交流は続いていた。中学校に上がると、かなり疎遠になってしまったと思う。別々の高校に進学したので、そこで関係は完全に切れてしまった。

高校を出て専門学校生になった俺がバイトをしていた地元のレンタルビデオ屋に、ちゃん大が現れた。そこで「あ、ちゃん大じゃん!久しぶり!」と、声でもかければよかったが、金髪交じりの長髪にヒョウ柄の帽子、赤いチェックシャツにブラックのスリムジーンズ、靴はラバーソールと、最近のレンタル店では考えられないような、自分史上もっとも尖ったいでたちで、タバコを吸いながらバイトをしていた俺は、普通の店員と客という立場で、否、普通より無愛想な店員として、そ知らぬ顔で彼に接してしまった。そこで声をかけなかったのを今でも少し後悔しているが、ちゃん大がレジに持ってきたビデオ(もちろん当時はすべてビデオテープ)は、アダルトビデオだったので、ちょっと再会を喜ぶシチュエーションではなかった。名作洋画2本の間にアダルトを挟むでもなく、3本ドカンとアダルトビデオを持ってきたのでなお更だった。俺はその店で、何人もの友人にアダルトビデオや、そうでない映画のビデオを貸したが、「お前がいるからアダルト借りやすいよ!」と言って借りる輩と、何年ぶりに見かけたかつての親友が、黙って3本のアダルトビデオを持ってくるのとではワケが違う。やはりどう考えても、フランクに声はかけられないのであった。

そのレンタルビデオ屋は、時代が昭和から平成になって、一年経つか経たないかで閉店してしまった。ちゃん大の消息もその後途絶えたままで今日に至る。

ガンプラズゴックのくだりは今回あくまでいちエピソードで、テーマは記憶の中にいるちゃん大を掘り起こして、向き合ってみるって話です。

1/144 MSM-07 量産型ズゴック (機動戦士ガンダム)1/144 MSM-07 量産型ズゴック (機動戦士ガンダム)

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