ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

庶民のファンファーレ

何度かこのブログを訪れてくれている読者諸君ならもうお分かりのように、俺は戦前生まれ、根っからのカタブツで、いつも眉間にシワをよせて生きているような、まったく冗談の通じない人間である。ネット上でさえもそうなのだから実際の俺は日々、半径何メートルの関わりの中でほんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとにつまらない人間として認識されている。今ではもう、おっさんなのでそこらへんの自意識回路も弱ってきており、とくにそれをどうとも思わずに毎日を空気のように過ごしているが、20代~30代前半ぐらいまでだと自分も今よりは若いし、職場などで関わる周りの人間も若いので、「何故?自分が面白いと思っていることが他人と共有できないのか、何故自分はこんなにもつまらなく冗談も通じない人間と思われているのか、こんなんだったらロジャー・ウオーターズもびっくりのコンセプト・アルバムが5枚くらい出来てしまうんじゃないか?」と、己のメンタリティ、アウトプットの不具合に日々葛藤し、書店居並ぶ自己啓発書を、手にもとらず表紙のタイトルや帯に書かれている宣伝文句だけを眺めて一日中過ごしたり、青汁を飲んだり、高い印鑑を買ったり、磁気ネックレスを首に巻いたりして過ごしていた。どうしてみんな飲み会であんなにウケて、俺は壁と靴箱の間にはまって動けないでいるのか。

しかし…

そういえば…思い出した。俺だって一度だけ、人を笑わせたことがあるぞ。

数年前、パソコンスクールに通っていたとき、プレゼン用ソフト、パワーポイントを使っての自由研究発表的な授業があった。

スクリーンに画面を映写しながらみんなの前でいろいろ発表するというものだ。あくまでメインはパワーポイントを使いこなすようになるということなので、題材は自由。クラスメイトたちは「美味しいコーヒーの入れ方」から「看護士の過酷な労働環境」まで、様々なテーマで自分の製作したパワーポイントを駆使し、発表していた。

俺は、趣味と言うほどではないけれど、日々あちこち出かけ、徘徊した経験の中から”あんなところ”やら”こんな場所”など、おでかけスポットを紹介することにした。さすがにちょっと”あんなところ”やら“こんな場所”は、学校の授業で詳しく取り上げるのは気が引けたのでそこらへんはサラっと流して、当たり障りのない“東武ワールドスクエア”とか”中野ブロードウェイ”を紹介し、一番の盛り上がりどころを“東京タワー蝋人形館”に設定、パワーポイントでプレゼンテーション資料を作成した。そしてそれを駆使し皆の前でプレゼンをかました。

 

“東京タワー蝋人形館”をピークにもってくるのはかなり冒険だったが、これがけっこう、ドッカンドッカンとウケまくりで、若いおねえちゃんからオバチャンまで、笑わせることが出来たのである。つうか、べつに笑わせるのが授業本来にの目的じゃない気もするけど。 そして、調子の波に乗った俺は、そのまま5分だったか7分だったか、上がったテンションを下げることなく、制限時間ほぼジャストで、プレゼンを着地させた。

てんでバラバラな人種が集まったクラスの前でイアン・アンダーソンとか、キース・エマーソンとか、フランク・ザッパとかクラウス・シュルツェ、マニュエル・ゲッチングとかの名前を出しながら笑いをとれたというのは、大きな自信となった。ジャーマン・プログレなんぞを聴いている人間が一人もいないクラスで、「そこはだいたいの想像で笑ってくれ」と、面白おかしく誇張した表現を交えて演説をぶったら、皆が笑った。なんだ俺だってやればできるじゃないか。「狂っているのは世界か俺か、やっぱり俺か」と思っていたのが、ギリギリのところで踏みとどまった気がする。

こんなことが出来るのなら今後は、転校先の小学校に登校する初日には、パワーポイントを持参して自己紹介しようと思った。イカしたJDイベントを駆逐するには、俺の武器はこのスライドショーしかない。これならいける。

ん?ただ、よく考えたら、これって既に、みうらじゅんとかがやってるイベントのパクリのような…

パクリじゃだめだ…

嗚呼また、振り出しに戻ってしまった。