ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

ラピッド・ファイア

世界糖尿病デー記念『そのとき!!…何が起こったか』

に続いて、6回目だぜ。

いいかげん、長いな。でももう少しの辛抱だ。我慢してくれ。

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毎朝、担当の中で一番エラい先生が巡回して患者から具合を聞き、逆に前日までに採取したデータから今の体内の状態を教えてくれる。そして今後の方針などをひと言ふた言話していく。

1月27日の朝、回ってきた先生は言った。

「ジェフさん、残念なお知らせ。検査の結果、ジェフさんの糖尿病は1型だった」

ガガガ、ガビーーン!!

1型…

俺は尋ねた。

「え?決定?一生?決定?」

「うん、決定」

「パオーーーーーン! 」

そう、一般的に知られている糖尿病は2型。生活習慣病とされており、食事療法や運動療法を中心としてインスリン注射、薬などで改善の見込みがある。体内のインスリン分泌機能が低下しているのだ。

そして、1型…

一生…一生って… ななななっ!

1型糖尿病は何らかの原因で免疫細胞が暴走し、自分のすい臓を攻撃。インスリンを分泌しているβ細胞自体が死んでしまう。はっきりとした原因は不明、現在のところ治療法も存在しないのだ。一生インスリン注射が手放せない。しかも、若年期に発症することが多い病気なのに、なんでこんなおっさんになってからなってんねん…

2型なら、「クロスバイクにも乗っているし、ウォーキングだってしている。都内に行けば日比谷公園をスタート地点にし有楽町、さらにそこから上野まで徒歩で行けるんだぜ。ガンガン運動して克服してやるぜ」と思っていたのに。

今後の一生を決定づける宣告を、わりとあっさりされてしまった。その後数分間はベッドの上で脱力してしまって動けずにいた。

しばし虚空を見つめ放心していた俺が次にとった行動は、携帯電話を開き、ネットで『1型糖尿病』を検索することだった(携帯電話使用可能スペースでやろうね)。万が一、治癒の可能性がないか調べるというのもあったが、何故か俺は1型糖尿病「何人に1人の割合でかかっている病気なのか」を調べだした。

おそらく「どうせ一生治らないのなら、メチャメチャ症例が少ない方がプレミア感があっていいわ」と何故か思ったのだ。変なの!

いくつかのサイトを覗いて調べてみると、文献によって若干の差はあるが、10万人に1人とか、1.5人の確率という感じだった。

う~ん、そうなのか。「でも、今年に入ってからもう3人目だよ」と先生は言っていたが。

次にやったことは、1型糖尿病の有名人を検索で探すことだった(何だろうね、この行動も)。

古今東西、2型を発症した有名人、努力によって改善した人も多くいるが、1型はやはり少ない。しかし、中にはプロスポーツ選手もいたりして、少し救われた。諸々のコントロールが上手くいけばそういった生活も出来るのだ。

そんな人生の節目を迎えつつ、病院での生活は続く。

入院中、何度かに分けて患者数人が部屋に集められ、糖尿病に関する勉強会も行われた。日常で気をつけるべきことや食事のことなど諸々のことについて講義を受けたのだった。スクリーンに映し出されたパワーポイント画面に挿入される、壊疽した足の写真にビビる。長期にわたった血糖コントロールを怠ると、しまいには“足を切断”とか、“失明”という事態にもなってしまう。ガビン…

まあ、日々の生活で諸々をしっかりとコントロールしておけばそこまでには至らないはずだ。 はずだ…

講義が終わり、医師からの「最後に何か質問がありますか?」との問いに、「質問ではないのですが」と言い、自分の体験から出てくるアドバイスと称して5分以上喋りだした爺さんに「ぅぅぅ…おいおいおい」と思う自分がそこにいた。何故なら俺は、今回の件で体重が激減して、体中がホネホネだからパイプ椅子に座ってんのもオケツがゴツゴツして痛いんだよ…

ナースセンターで主治医との個人面談の形でも話を聞いた。先生が言うには、「それなりの食事をして血糖コントロールをしっかりしていれば、今現在健康で好き放題飲んで食ってしている人よりよっぽど長生きできるよ」とのことだった。「難しいことはない。本来日本人が食べている類の食事を、適量食べていれば良い」と。

入院12日目の1月29日、隣のベッドにいた例のやつが退院した。鬱陶しい面会人たちもこれで来ないと心の中でほくそえんだが、それ以上に嬉しい変化が起こった。1人退出した部屋にはすぐに次の患者が入ってくるような状況なのだが、俺が今空いた位置、窓際に移ることとなったのだ。

聞いたときは「ああ、はいそうですか」ぐらいの気持ちだったが、廊下側から窓際に移ってみると…「うわ!何これ!すげえ天国!!」といった感じでビックリした。素晴らしい夜景も隣のマンションの着替えシーンもとくに見えないが、空が見えるだけでも違うのね。実際この変化は凄かったね。1日中、壁と天井を見て過ごすのと、空が見えるのとは大違いなのだ。

退院も近いかなという頃に、エコー検査も行われた。胸に水あめのようなものを塗り、エコーをとる機械でグリグリ…超くすぐったい。検査台の上で悶えて吹き出し、「くすぐったいですよね~。笑ってんいいですよ」と言われてしまった。

そして1月30日、ついに外泊の許可が出た。べつにホームシックでおうちに帰るのではなく、自力で日常を過ごせるかどうかの“試験外泊”。退院して、日々自分で健康管理して生活できるかどうかの練習である。入院中は食事も病院が用意した適切なメニューが黙っていても出てくるし、血糖測定もインスリン注射も看護士が近くにいるので忘れないし間違いもない、至れり尽くせりの状態。それを退院後は全て自分でこなすこととなる。

病院での夕食を済ませてから、帰宅。翌日の夕食を自宅で摂って病院に戻るスケジュールで外泊は行われることとなった。

入院時は瀕死の状態でタクシーに乗ってきたが、徒歩と電車で帰宅した。激痩せと長期のベッド生活で体力は落ち、我が家までの道のりは長く感じた。 …つうか、まだ徒歩では少し無理があったな。

看護士さんに見られていない状態で初めてのインスリン注射は緊張し、慎重になったが、とくにトラブルもなくその日は久しぶりに我が家の布団に潜って眠りについた。

翌日、入院途中で持参した文庫本は全て読んでしまったので、近所のBOOK OFFへ、買出しに行った。もちろん、105円コーナーへ…

普段は徒歩10分で行く店だが、さすがにこのときは歩きではなく自動車で行ってしまった。本を選んでいても少し足元がおぼつかない。

1月31日、自宅での夕食後に病院へ戻る。試験帰宅も問題なかったし、もう長くはないだろうが、本も買ってきたし、態勢は万全だぜ。

そして翌日、月が変って2月1日。朝の巡回で主治医の先生が言った。「どう?問題なかったでしょ?今日、退院していいよ。昼食はどうする?食べてから帰る?」

ええーーーっ!?そーいうことだったの?本、いっぱい買ってきちゃったよ…

…突然、2週間の入院生活が終った。

もうちょっとだけ…―つづく―

糖尿だよ!おっ母さん糖尿だよ!おっ母さん

(2007/07/01)

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