ジェフ・ゴールドスミス日記

ファッションとグルメ以外のこと。

ベスティアル・インヴェージョン

椎名誠 / 本の雑誌血風録

『哀愁の町に霧が降るのだ』『新橋烏森口青春篇』『銀座のカラス』ときて、この『本の雑誌血風録』では、椎名誠が百貨店業界誌の編集長からプロの作家になる過程と、「働いていると好きなだけ本が読めない」という理由から、椎名の会社に入社早々ドロップアウトした目黒考二が書いては近しい人に送付していた“読書感想手紙”なるものが“本の雑誌”とゆう商業誌にまでなってしまうまでの過程が描かれている。

日当たりの悪い六畳一間のアパートに男4人が暮らすという、オシャレなルームシェアをしている人からすると卒倒してしまいそうな条件下でのハチャメチャな青春期を描いた『哀愁の町に霧が降るのだ』以降の2作、サラリーマン時代を描いた『新橋烏森口青春篇』『銀座のカラス』は、社会人として一人前になってゆくにつれて背負う哀愁のようなものが漂っていたが、ここで再びとゆうか、これから“何かが始まる”得体の知れない希望と不安を伴う高揚感、パワーの漲りのようなものが作品を支配している。

椎名も創立メンバーのひとりとなる“本の雑誌社”。読書感想文を書いてコピーし、知人に送っていたものが、印刷所で刷る印刷物となり、書店での販売が始まり、小さな事務所を構え、平台印刷が輪転機での印刷となり・・・と進んで、終章で「株式会社にしよう」とまでになる様子は読んでいてゾクゾク、ワクワクする。

椎名個人も、業界誌の編集長、“本の雑誌”のメンバーとして奔走しつつ(暴力バーに入ってしまったり、ヤクザと喧嘩したりもしつつ)、作家デビューして本がベストセラーになったりと慌しくなってくる。

この小説で一番好きな場面は最終盤、銀座でのシーン。自分的にはコレ最高。

サラリーマン、“本の雑誌”、作家デビューと多忙でバーストしたためか、神経症になってしまった椎名が病院帰りに“アメ横にある米軍払い下げを扱う店”でコートを買う(おそらく中田商店だろう)。

後日、そのコートを着て歳末の銀座を歩きながら明日への決意を固めるシーンがとても良い。

シリーズ中、もっともお気に入りのラストシーンだ。

精神的に疲弊しているとき、本編すべてだと長いのでその終章だけ読み返してエネルギーを補充したりすることがある。

・・・とゆうのはちょっとお手軽すぎかえ?

『リストラなう!』の次にこのエントリーが来るとなんか変な感じだが、時事性の薄い記事は書き溜めておいたのを順次UPしていたりするので、実際は2週間ぐらい時差があるとゆうのはあまり知られていない事実である。

本の雑誌血風録 (新潮文庫)本の雑誌血風録 (新潮文庫)

(2002/01)

椎名 誠

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