椎名誠 / 哀愁の町に霧が降るのだ
喧嘩に明け暮れていた高校時代、小岩のボロアパート“克美荘”での仲間たちとの共同生活、ドタバタ劇、酒・・・椎名誠の青春を追体験するのは、なんでこんなに楽しいのだろう。
日当たりの良くない六畳間に若い男どもが4人も詰め込まれての共同生活、貧乏をなんとかやりくりしての食事や酒盛りなどもたまらなく魅力的に描かれていて、たまらない。
読んでいると2枚で20円のソーセージの三角フライも、3個で10円のポテトフライも、とても愛しく思えてくる。
貧乏、酒、仲間・・・とてつもない大きなドラマが描かれているワケではないのだが、こうして読んでみるとそのグダグダとした青春が、なんだかとてもかけがえのないモノに見えてくる。
終盤、部屋のメンバーが欠けてゆき、椎名誠も就職しサラリーマンとなり、皆それぞれ大人となって“克美荘”から去ってゆくあたりはなんとも切ない。(ただ、住人たちが“克美荘”から去ることは友情の終焉ではなく、仲間との関わりは椎名誠のサラリーマン生活を描いた続編の『新橋烏森口青春篇 』以降にも引き継がれる)
・・・しまった、なんか、まったくフツウのことしか書けないぞ。
とにかく、とにかくだ、店が休みで楽しみにしていた“とんちゃん”のカツ丼を食べ損ねた一行。その代わりにと、後に有名弁護士となる木村晋介がアパートで作る“カツ鍋”の描写がたまらないし、そこへ横道に逸れる形で挿入される醤油とかつお節のぐちゃぐちゃソーメンにマヨネーズを投入してしまう記述もたまらないのである。
友情、青春も、かつお節もマヨネーズも物語の中で輝いているのである。
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